さてみなさんこんにちは。
前回は長年に渡る謎が「スッキリ」解決したような、ものすごい大どんでん返しでしたね。
ゴッタンの語源は、おそらく「木弾」で「ゴー・タン」というベトナム語に関係がありそうだ、というオチでした。
しかし、そうなると、再検討しなくてはいけないことが出てきます。それはいわゆる三弦の仲間ではあるものの、蛇皮三弦とは違う流入の仕方をしたのではないか、という点です。
これまで、沖縄三線の変形だと考えていましたが、それも一度リセットしてよいかもしれません。
沖縄に蛇皮の三弦が入ってきて、薩摩地方のどこかには「木弾」が入ってきた、とすれば別物の可能性もあるからです。
同時に、南方の周辺国家についても検討してみました。東南アジアには現在
■ フィリピン
■ インドネシア
■ ベトナム
■ ラオス
■ カンボジア
■ タイ
■ ミャンマー
■ マレーシア
などがありますが、「ゴータン」がやってきたと思われるのはベトナムです。ベトナム以外には「ダン」系の楽器がほとんどなく、名称の関連性も薄いからです。
「ゴー・ダン」がやってきたとすればベトナムであろう、というのが第一選択なのですが、それでも気になる点があります。
それは現在の言い方だと、ベトナムでは「ダン・ゴー」であること。むしろ「ゴー・ダン」であれば中国式になります。
そしてその中国では「ダン(弾)」系の名称があまりなく「チン(琴)」系の名称のほうが強いことです。
ということは、ゴーダンは、中国風でもあり、しかし言葉はベトナム語ということになります。ベトナムから直接やってきたというよりは、海運や通商などの間に、「越南と中国のはざま」を行き来しながら船に乗ってきたものと思われます。
おもしろいことにベトナム楽器には2つの言い方があり、たとえば
■ ダン・グエット と グエット・カム (弾月 と 月琴)
■ ダン・バウ と ドク・フイェ ン・カム (弾瓢 と 独弦琴)
などですが、前者がベトナム風、後者が中国風と考えれば、とても納得がゆきます。
おそらく中国風とベトナム風のはざまで揺れ動きながら、これらの楽器が伝播したものと思われますね。
東アジアの国際関係とその近代化 朝鮮と越南 原田環
https://www.jkcf.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2019/11/02-0j_j.pdf
の論文によると、清国を中心とする朝貢関係で言えば
「朝鮮・越南・琉球」の3つの国
が特別な地位を持ったことが示されています。もちろん、琉球は薩摩藩にも朝貢したわけですが。
だとすれば薩摩に「木弾」が入った理由も頷けます。中国風になった越南の品が入る可能性が、最も高いからですね。
(加えて、経由地としてやっぱり琉球が上がってきそうな気がします)
これも参考として琉球における楽器の様子を見ると
http://kumiodori.jp/kumiorori/index.html
”首里城での慶賀(ケイガ)や御冠船踊(カンセンオドリ)、または江戸上り(エドノボリ)の際に奏(ソウ)された室内楽(シツナイガク)を「御座楽(ザガク)」というが、それは中国の明・清楽系統(ミン・シンガクケイトウ)の音楽を奏するものであった。そのときの楽器には、弦楽器(ゲンガッキ)に瑟(ヒツ)、二線(ニセン)、三線(サンセン)、四線(シセン)、琉三絃(リュウサンゲン)、長線(チョウセン)、琵琶(ビワ)、胡琴(コキン)、揚琴(ヨウキン)、月琴(ゲッキン)、提琴(テイキオン)などがあり、打楽器に二金(ニキン)、三金(サンキン)、銅鑼(ドウラ)、三板(サンパ)、小鉦(ショウショウ)、金鑼(キンラ)、小銅鍵(ショウドウラ)、新心(シンシン)、両班(リョウハン)、韻鑼(インラ)、挿板(ソウハン)、ハウ子(ハウツ)、檀板(ダンバン)、相思板(ソウシハン)、着板(チャクバン)などがあり、吹奏楽器(スイソウガッキ)に篳篥(ヒチリキ)、半笙(ハンショウ)、哨吶(ソナ)、立笙(リッショウ)、横笛(ヨコブエ)、管(カン)、銅角(ドウガク)、喇叭(ラッパ)、洞簫(ドウショウ)、十二律(ジュニリツ)などがあった。また、琉球王国時代に中国から伝来した道中楽(ドウチュウガク)を「路次楽(ロジガク)」と称するが、それに使用する楽器には銅鑼(ドラ)、両班(リャンハン)、哨吶(ソナ)、喇叭(ラッパ)、銅角(ドウカク)、鼓(クウ)、新心(シンシン)などがあった。”
とあり、「二弦・三弦・四弦系楽器」や「琵琶・琴系楽器」は見られるものの「弾系楽器」は見られず、ベトナムから直接は琉球王国へ伝播はしていないと推測できます。
とすれば、「弾」の流入は、公式なものではなく、漂着者などが持っていた等、イレギュラーなものであったかもしれません。
(御座楽では沖縄三線よりも大三弦・中三弦の使用が目立つ。
https://rujiuza.com/instruments/uzagaku/
もとの記事中に「琉三絃」とあるのが、いわゆる短くなったあとの沖縄三線かもしれない)
https://poste-vn.com/lifetips/vietnam-instrument-350
↑こちらのサイトでは、木製三弦である「ダン・ダイ」の音色が聞けます。棹が長いのはハイポジション中心に弾くからでしょう。
また、いわゆる三弦である「ダン・タム」について棹が短いことが書かれています。動画で見る限りでは沖縄三線よりは長そうですが、現代ゴッタンくらいの長さなのかもしれません。
https://item.rakuten.co.jp/earthvillage/130019/
現行品は全長90センチらしいので、まさに現代ゴッタンとおなじ。
こうして考えると、ゴッタンはやはり「三味線よりは小さい」ということは確実でOKと思います。
ただし古ゴッタンが2尺5寸などの「もっと短い」棹だった話は、オリジナルの「木弾」がどうであったかも考慮する必要があると感じます。
沖縄三線との影響関係を探ってゆく必要があるでしょう。
によると古い沖縄三線の胴は、現在の80%くらい小さい、との話もあり、さらに謎が深まります。
現在の三線胴は180ミリ程度ですから、それに80%を掛けると144ミリということになり、以前に紹介した平原さん所有の「現代ゴッタン」と「古ゴッタン」のサイズ比率とおなじくらい小さいことになります。
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さらに、この記事を書いている途中で発見したのですが、(すでにアップ済み)、沖縄三線の棹が短いのは明清楽との関係が確実にありそうです。
■ ベトナム三弦はカポをつけて弾く
■ 明清楽三弦もカポをつけて弾く なおかつ指固定で弾く。
■ 中国三弦のオリジナルはカポをつけない。
という関係性があり、沖縄三弦はおそらく時代的には三弦が入ってきて、工工四が整備される頃かそれ以降に、「短く製作された」可能性が高いと思われます。
そうすると、考え方としては、
■ 古い時代のゴッタンがさらに短い、というのは沖縄三線の影響か(2尺5寸)
■ 三弦琴、三弦子の基本形からすれば90センチ寸法は”正しい”(3尺)
という2つの観点があることになります。
このあたりを追求してゆけば、ゴッタンがやってきた時代や形状の考え方も整理されてくるかもしれません。
音楽的には、少なくとも琉球宮廷音楽と薩摩民謡は直接的につながるわけではないので、
■ ゴッタンは指固定ではないだろう(推測)
■ ゴッタンと明清楽の関係は薄いだろう
と仮に考えれば、別に「短くする」必要はないことになります。
そうすると、ゴッタンには「2尺5寸の三線を模したもの」と「3尺の三弦系のもの」の2パターンが混在していても、不思議ではないということになるでしょう。
むしろ、指固定ではない演奏法からすれば、短い必要がなく、「ふつうの三弦系同様、3尺に近い」大きさであっても良いことになります。
このことを確定してゆくには、やはり「ゴッタンの音楽性」に立ち戻る必要があるかもしれません。
(つづく)
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