2022年6月26日日曜日

【楽しいインク沼001】 中世の鉄インクを作ろう(古典インク・自作インク)

 

 さてみなさんこんにちは。

 

 左大文字は三味線も好きですが、大学は文学部に行ったくらい「文学少年」でした。というわけで文学少年らしく「万年筆」なども大好き。

 そういえばブログなどではあまり書いていませんでしたが、昨今は「趣味の文具」として万年筆も人気のようで、いろいろなインクを味わう「インク沼」といった言葉。

 

 そこで、なんでも作ってしまう左大文字としては、

 

「インクを作ってしまおう!」

 

という実験を始めてみます。

 

 インクにはいろいろな種類がありますが、大きく分けて2つの種類があります。

  まずは顔料インクで、「墨」などもこの種類。細かい粒子が、水のなかで分散しているものを塗りつけるタイプです。

 中国などでの墨の歴史は古く、紀元前から存在していたとか。あるいは岩などを砕いて顔料を取り出し、それを塗りつけるのも顔料インクの一種ですね。

 

 それに対して「水に溶けている」ものを染料インクと言います。こちらは水の中の粒子というよりは、水分そのものに色がついていて、それが対象物に染み込む感じですね。

 このタイプのインクは、特に中世では「羊皮紙に羽ペンで書き込み、定着させる」という感じで使われていました。

 

 この中世のインクは、現代では古典インクとも言われます。原理はシンプルで、「鉄イオン」が溶けている水溶液を作り、そのイオンが紙に筆記されることで酸化して、文字が定着する、というものです。

 ただ、その成分の調整はなかなかにシビアで、奥深いようです。

 

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 実は左大文字さん。この春からちょっとだけ園芸に目覚めており、植物を育てるのに「タンニン鉄」という液体を使って発芽を促進しています。

 タンニン鉄というのは、お茶や柿渋といったタンニンに鉄を反応させたもので、鉄イオンが水溶液中に溶けているものです。古釘などをお茶に浸して作ります。

 

 ん??

 さっき同じ話をしなかったっけ?

 

 そう!実は園芸で使うタンニン鉄と、古典インクと呼ばれる中世のインクは、製法的には非常に近いものがあります。

 ただし、目的と結果は違っていて、植物に使う場合は「二価鉄」という鉄イオンが植物の成長を促すのに対して、「三価鉄」になってしまうと不溶性なので吸収できず、役に立ちません。

 ところがインクの場合は、二価鉄の状態だと溶けているものが、紙に乗って三価鉄になると不溶性になり、「水分に負けず、 繊維に定着する」ことで筆記具として最高のパフォーマンスを発揮するようになります。


 つまり、植物は二価鉄状態であることが重要で、インクは三価鉄になることが重要というわけ。

 

 では鉄インクを作ってみましょう。

 

 

 まずは緑茶を入れます。パックのものでも可。お茶類やコーヒー類にはタンニンが含まれていますが、緑茶が(本当は玉露が)いちばんタンニンが多く出てくるそうです。

 沸騰したお湯より、やや温度は低いほうがよく抽出できるとも。



 湯呑にお茶を入れて、スチールウールをぶち込みます。研磨剤がついていない、素のタイプを使いましょう。

 湯呑がタンニン鉄でまっ黒になるので、紙コップなどを使ったほうがいいです。うちの湯呑はたいへんなことになりました。


 

 溶液は、けっこうすぐに真っ黒になります。反応は数十秒で起きるのですが、いつまで浸しておいてよいかわからないので、5分〜10分くらいはそのままにしておきました。

 

 実は古典インク、タンニン鉄インクのベースの部分はこれだけ!基本はシンプルですね。

 

 


 ガラスペンを用意して、書いてみます。



 書いた直後↑

 



 乾燥後 ↑

 

 実際に書いてみると、たしかに書けます。乾燥後にやや黒さが増し、視認度がアップしたのも確認できます。まあ、最低限インクの機能はあることがわかりました。


 けれど、器に入っている液体はそれなりに黒いのですが、ガラスペンに吸わせた時や筆記した時の濃さが「薄い」のは否めません。

 

 スチールウールの漬け込み時間を増やして、反応を促進させればいいのか、それともタンニンの分子などに調整が必要なのか、研究が必要だと思います。

 

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 さて、もともとの成分は「お茶」なので、腐敗が心配です。そこで防腐剤を入れてみました。古典インクや初期のインクでは「石炭酸」(フェノール)が使われていたらしいのですが、 その伝統?をオマージュしてフェノール系の素材を使いましょう。




 洗口液の「リステリン」は、もともと「フェノールで殺菌する」ということを発明したリスター博士の業績に由来する製品ですが、今のリステリンオリジナルにはフェノールは入っていません。

 しかし、上位版のトータルケアシリーズには「イソプロピルメチルフェノール」が入っています。いいじゃん!まさにフェノール入り。

 おまけにこちらはノンアルコールなので、にじみも防止できます。

 

 というわけで、防腐剤として、リステリンをぶち込みました。適量。

 

 ついでに粘度調整もやっちゃいます。

 

 古典インクでは「アラビアガム」という植物抽出物を使っていました。はるか昔のゴムのりで用いられたこともあるようです。要するに粘っているものですね。

 

 今回はアラビアガムではなく、「アラビアのり」を合成品で再現した「アラビックヤマト」の成分、「PVA」をぶちこみました。

 


 

 要するに「水のり」です。 


 こちらは万年筆の内部で固まるとけっこう悪さをするので、1%前後から調整します。ガラスペンを使う場合は、洗い流しやすいので、お好みで。

 


 


  

 いちおうは黒いんですが、まだまだ研究の余地あり!ですね。

 

 

 

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