2022年6月29日水曜日

【楽しいインク沼005】 ワインとインクは、たぶん「いとこ」というお話。

  さてみなさんこんにちは

 毎度おなじみ、インク沼の底のお時間です。

 

  毎日、仕事から帰ってきたらお風呂に入って、熱いお茶を入れます。ええ、茶道を極めようとしているのではなく、「インク」を極めようとしているだけです。


 とりあえず、今日も、ぬたぬたに濃いお茶を入れ、イカスミみたいに真っ黒なインクをまずは淹れます。(もはや、”淹れ”るという表現)


 この作業、実は昨日もやったばかりですが、今日はちょっとばかり確かめたいことがあって、再度繰り返しているのです。

 

 




 はい、インクを淹れ終わりました(笑)


 さて、ここからです。実は中世の古典インクは「アラビアガム」が入れてあり、それを真似して左大文字さんも「アラビックヤマト」(PVA)を処方としてぶちこんでいるのですが、私は知識がなかったので、

 

ただの増粘剤

 

としてアラビアガムが入れてあるのだ、くらいに思っていました。 


 ようするに、ただのお茶やら水だけだとシャバシャバなので、適度な粘性を与えるためにアラビアガムが使われているのだ、と考えていたのです。だったら、たとえば、「グリセリン」とかでもいいじゃん!みたいに思っていました。


 ところが、アラビアガムについて調べていると、「ワインに入っている」という話が見つかったのです。

 なるほど、ワインでインクを作る、みたいな話もあるようだし、ワインの渋みも「タンニン」だし、ワインとインクは共通点が多いな、と考え、その話をじっくり読んでみると、なんだか引っかかるところが多いのです!

 

 その記事は、こちら

ワインの安定剤は何を安定させているのか 


 ワインには防腐剤やら、いろんなものが添加物として入っているのはよく知られたことで、その成分が体に悪いんじゃなかろうか?みたいな話もちらほら。

 でも、そうした添加物がいろいろ入っているのは「意味」があり、上の記事ではその理由にまで踏み込んでくれているわけです。

 

 その中での「アラビアガム」は、安定剤として入っているのですが、記事中には、ツボがいろいろ隠れていました。

 

”長い時間を経たワインではボトルのそこに澱と呼ばれる沈殿物が出ることは有名です。この澱には酒石酸やタンニンを含むフェノール類、タンパク質類、そして時には金属化合物が含まれています。”

→ ひっかかりポイント1。ん?タンニンが出てきたぞ?

 

安定剤はワインに含まれている不溶性の物質が析出して沈殿することを防止するために添加される”

→ ひっかかりポイント2。 析出と沈殿を防止する?どこかで聞いた話だね。

 

  

アラビアガムが抑制するのは、タンニンを含むフェノール類や金属系化合物の沈殿”

→ ひっかかりポイント3。 タンニンや金属化合物だと?キタコレ?!

 

溶けにくいものを溶かしておく性質”

 

→ ひっかかりポイント4。 溶かしておいてくれるんだね、君は!

 

  ・・・要するに、昨日までの実験では「酸」を加えることでタンニン鉄(三価鉄)の析出を抑えようとしたわけですが、そもそも古典インクのレシピにある「アラビアガム」にも、その性質がある、ということなのですね。

 

 じゃあ、アラビアガムの実験をしようじゃないか!

 

 とはいえ、うちにはアラビアガムはないので、アラビックヤマトで代用です。アラビアガムには親水性と疎水性があり、水溶物とそうでないものをがっちり捉えてくれるという性質がありますが、代用品のPVAにもほぼおなじ性質があり、そのまま代用可能です。

 



  余談ながら、うちの会社の奥底に眠っていた15年もののアラビックヤマトは、すでに固形物と化しておりました。アラビアガム?←ちがう。

 

 とまあ、これは冗談で、さすがに今回は液状のままのPVAを使います。

 

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 さきほど作った濃茶インクは、昨日と処方はまったく同じ。まずは線を引いてみると沈殿物が目立ちます。

乾燥すると


 

 

 細かいツブツブ粒子が見えます。ということはやはり「タンニン鉄の顔料インク」みたいになっているということです。


 そこで、今日の濃茶インクに3分の1くらいまでたっぷりと「PVA」をぶちこんで溶かしてみました。

 たぶん、通常の処方としては多すぎで、むしろ「のり」に近づいているのですが、そこはまあ、実験なので。

 

 


 そうすると、心持ち、しっかりと紙に乗っている感じが出てきました。

 


  ツブツブがなくなったわけではないのですが、水彩絵の具のように、じっとりと張り付いてくれている感じがあります。

 

 当初の「お茶だけ」だと、水分の上に黒い粒が点在している感じですが、分散して広がっている感触はたしかにあります。PVAは「バインダー」として機能しているようです。

 

(実際、水彩絵の具は、顔料をアラビアガムと水で溶いたもので、アラビアガムの含有量と顔料の比率で「透明水彩」と「不透明水彩」に分かれるのだとか)

 

  今回の実験では

 

「アラビアガムのおかげで、二価鉄は溶けたままでいてくれる」

 

かどうかまでは定かにはなりませんでしたが、少なくとも「三価鉄」がまとまりよく存在するようになることは確認できました。

 

 少なくとも、アラビアガムの効用は、大事にせねばなりません。

 

  ワインのおかげで、またひとつ賢くなりましたとさ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 今日のおまけ

 

 


 濃茶インクを酸で溶かして多少溶解度を増したものを昨日作ったのですが、なんとか茶色い文字が浮かび上がるようになってきました。

 このあたりの調合はまだまだ研究途上ですが、目指すものに近づきつつあります。

 

 

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