2023年12月31日日曜日

【連載】 謎の楽器「ごったん」ミステリーに挑む06 民謡とゴッタンの関係性を探る ハイヤ節の正体

 

 さてみなさんこんにちは。


 ワタクシ、左大文字は、京都の左大文字山のふもとで三味線を弾いたり、板三線を作ったり、コード弾きを開発したりしていたので、「左大文字」を名乗っていますが、現在は、京都からみればちょっとお隣の「丹波」に住んでいます。


 丹波、といえば、全国の人は「丹波篠山」という言葉を聞いたことがあると思いますが、これにはとある一曲の有名な民謡が関係しています。


 それは「デカンショ節」という民謡です。


♪ 丹波篠山〜山家の猿が〜(ヨイヨイ) 花のお江戸で〜芝居する(ヨーイヨーイ、デッカンショ)


という歌詞が全国的に有名で、「丹波篠山」というひとつの名詞のように歌われるので、丹波と篠山はくっついて覚えられるようになったわけです。


 さて、この歌詞の次に有名な歌詞があります。


♪ デカンショ〜デカンショで半年暮らす(ヨイヨイ) あとの半年寝て暮らす(ヨーイヨーイ、デッカンショ)


 こちらの歌詞を見ると、鹿児島方面のゴッタン関係者であれば、驚くはずです。なぜなら「半年なにかして暮らして、あとの半年を寝て暮らす」というお話は、ハンヤ節に出てくる歌詞と同一だからです。


【鹿児島ハンヤ節】

♪ ハンヤ ハンヤで半年暮れた あとの半年寝て暮らす


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 歌詞としての謎解きを先に済ませておきますが、丹波篠山は灘などの酒づくりが盛んな地域と杜氏の仕事で交流がありました。酒づくりは米が取れてから仕込みますから、収穫するまでは仕事がありません。なので、丹波では「半年は杜氏の仕事で出稼ぎをして、あとの半年は戻ってくる」といったニュアンスでこの歌詞を説明します。


 しかし、結論から言えば、これは嘘です(笑) 丹波に杜氏がいて、出稼ぎをするのは事実ですが、「デカンショ」は「出稼ぎしよう」の意味ではなく、「どっこいしょ」の変化した言葉です。

 その証拠に、丹波のお隣、福知山という京都の町には、「福知山ドッコイセ祭り」というのがあって、こちらも「どっこいしょ」の変化系だとわかるのです。


 一方のハンヤは、「南風(はえ)」を港で待つ船の話が背景にあります。南風は「ハイヤ」などとも言われますが、風力だけで移動する昔の船は、風を待って港で待機したり、台風などでは風を避けて退避したりしたので、それを誇張して「半年待たされた」と歌ったわけです。


 この「ハイヤ系民謡」を探ってゆくと、それだけで何本か論文が書けるほどの情報が眠っているのですが、結果として日本中の港にこの系統の民謡が伝播したため、鹿児島・熊本・長崎をはじめ京都宮津、佐渡、山形、青森、岩手、宮城、北海道まで同系統の歌があります。

 津軽では「あいや節」と変化していますね。


 さて、このハイヤ節は江戸時代後期には成立していたことがわかっており、一方のデカンショ節は、江戸時代には原型の「みつ節」であり、デカンショ化してゆくのは明治以降と考えるのが妥当のようです。


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 さて、ハイヤ系民謡は、その起源を熊本天草地方の「牛深ハイヤ節」に推定するものが多いようです。諸説ありますが、源流は九州でしょう。

 しかし、港伝いにどこまでも行ってしまうので、「阿波おどり」や「佐渡おけさ」までもが、このハイヤの変化系だとも言われます。


 ところで、この連載の以前の回に登場した「安久節」と「おはら節」は、源流がおなじとされています。こちらは安久節が江戸初期に成立したようで、日向の安久節が、薩摩のおはら節に展開したと考えられます。


 また「ションガ節」は屋久島が源流で、「潮変え節」は鹿児島の枕崎・坊津地方の労働歌とのこと。


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 こうして、鹿児島地方において「ごったん」で演奏されるらしい民謡を見てゆくと、あることに気づきます。


 私は地唄が一番最初に触れた三味線音楽で、そこから沖縄民謡もかじりましたが、演奏者として発見した、大きなポイントがあるのです。


 それは、デカンショ節にせよ、本州の民謡にせよ、あるいは沖縄民謡にせよ、「すべて音階を弾く」のが三味線楽器でのこれらの民謡の演奏法であるのに対して、「ハンヤ系民謡」や「安久・おはら節」などは音階を弾かない演奏法である、ということです。


 え?何言ってるかわからない!


と、一瞬みなさんはここでたじろぐかもしれませんが、ゆっくり説明しますね。


 いわゆる本州の民謡は、メロディラインがあって、それに沿うように三味線を演奏します。もちろん、民謡というのは楽器ありきではなく、メロディや節まわしありきで、それに楽器が付随してくるものなので、三味線で弾く音階というのは絶対的なものではありません。


 しかし、たとえば「さくらさくら」を三味線で弾く場合を想像すればわかるように、邦楽の多くは民謡であっても「音階を一音ずつ鳴らしてゆく」のが基本です。


 ところが、「ハイヤ節系民謡」や「安久・おはら節系民謡」は、音階に追従しません。歌い手はたしかにメロディを歌い上げますが、三味線の伴奏は

「ジャンカ♪ジャンカ♪ジャンカ♪」

と、特定のリズムを刻むだけです。


 これはかなりヘンテコなことなのです。


 普通の民謡が、クラッシクギターの演奏やエレキギターの演奏だとすれば、「ハイヤ系」などはバッキングだけをやっているというか、コードだけをかき鳴らしているというか、メロディをまったく弾いていないのです!


 このことは、ゴッタンが本州の「三味線音楽」の影響をあまり受けていないことを意味します。


 本州の三味線音楽は、基本的には「音階、メロディに追従する」ことが多く、鹿児島のそれはそうではないとすれば、明治になって「本州の三味線」が入ってきたとしても、楽器としてはそれを使用しているけれど、「三味線音楽」は流入していない可能性が高いと考えられるのです。


 では、この「ジャンカジャンカ」の正体はなんなのでしょうか?


 音楽的には、「奄美六調」というジャンルにその秘密が隠れているようです。


https://www.youtube.com/watch?v=yC93bMa8-vE


 聞けばすぐわかる「ジャンカジャンカ」のリズムですが、三味線を上下にかき鳴らすので、上から3本、下から3本で「”六”調」なのだとか。


 けれども、奄美六調が、鹿児島に「出ていった」と考えるのは早計で、むしろ逆なのだとされています。


 その証拠に、奄美六調の歌詞は、七五調であり、本州式です。これは逆輸入のメロディなのです。また八重山にも「六調」が入ってきていますが、これも九州〜奄美〜八重山への流入と考えられます。


 さらに面白いことに、「奄美六調」はいわゆる沖縄でのカチャーシー系楽曲に相当するのですが、沖縄のカチャーシーもスピードが速く一見すると「ジャンカジャンカ」系に見えるけれども、実は「猛スピードで分散和音を弾く」というとんでもないことをやっています。

 「唐船ドーイ」などを弾いているところを映像で見てもらえばわかりますが、「ジャンカジャンカ」に聞こえるところは分散して単音を弾いており、なおかつメロディも追従するという演奏法であることがわかると思います。

 ぜひ「奄美六調」の演奏や、「ハイヤ系」の演奏と比較してみてください。


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 奄美民謡をよく聞くとわかるのですが、音階は琉球音階ではなくヤマト音階です。つまり、本州式ですね。

 一般的には奄美大島や徳之島などがヤマト音階の南限だとされています。

 そうすると、奄美六調が「本州からの流入である」ということとも整合性が取れます。


 つまり、整理すると


■ 奄美大島は本州音階である。

■ 楽器は沖縄三線を使っているが、本州式三味線に近い弾き方をする。

■ 六調は本州型の音階メロディとは異なるが、九州が起源。


ということになるでしょう。


 では結論として、「六調」や「ハイヤ」はいったい何なのか??


 ひとつの仮説として考えるならば、


■ 南九州独自の、本州型カチャーシーの発現である


ということは言えるかもしれません。


 琉球のカチャーシーは「琉球音階における、分散和音型楽曲」です。速弾きで「ジャンカジャンカ」ではあるものの、実態は高速な分身の術です。


 民俗的に似た音楽性を持つ南九州地方において、同様のリズムや熱狂が生じることは想像に難くありませんが、しかし、その音階はあくまでも「本州型(ヤマト音階)」ということになります。

 ここから先は想像ですが、ヤマト音階では分散和音が取れなかったのかもしれません。それよりも、その音階を利用して「ジャンカジャンカ」してしまったほうが早かった可能性もあります。


 とすれば、ゴッタンの音楽というのは、実は独自性を持ちます。


■ 沖縄音階ではない。工工四も使わないので、中国曲の輸入でもない。

■ 奄美三線は本州三味線の代替用法である。沖縄三線を使って本州の音楽を再現したかった様子がある。

■ ゴッタンは本州の三味線音楽とは異なる。(本州三味線の影響は後代になってからか?)

■ ジャンカジャンカ楽曲のオリジナルは、ゴッタンではないのか?

(バチをつかわず、指だけでかき鳴らすのはゴッタンの奏法である)

■ ゴッタンは薩摩の楽器とはいいながら、薩摩藩下では禁制であり、存在し得ない。

■ では、ゴッタンは”どこ”の楽器だというのか??


 ・・・謎が謎をさらに生む展開ですが、さらに考察を進めてゆきましょう。


(つづく)




 


 


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